「キャロリング」

キャロリング
 有川浩:著

キャロリング


表紙にガラスの天使と球体のオーナメント。
透明感あるなーと何気なく手に取りましたが、お話が12月が舞台でクリスマスがラスト、ということから、読み始めて納得。


納得できなかった…というか、驚いたのは、お話の始まり方。
いきなり、拳銃を突きつけられている主人公。
これは、有川さんのお話では珍しい始まりじゃありません?

荒んだ目をして拳銃を構える男。
主人公がかばっているらしき少年。
奥でぼろきれのように転がっている少年の父。

しかも、荒んだ目をした男は、心の中まで荒みきっているようで、これは、有川さんの作品の中でも、「ヒトモドキ」系のお話かな…とオープニングでは思いました。


この、ハードボイルドなオープニングのあと、お話は12月のはじめに戻ります。
舞台は、12月25日に倒産を迎える小さな衣料品メーカー。

社長の英代さん。
デザイナーのベンさん。
もうひとりのデザイナーの柊子。
東大卒で美人でナイスバディの朝倉。
主人公の大和。

朝倉は、ちょっとカチコチな女性で、気のきかない物言いで、事務所に波風を立てたり。
それを、ベンさんがからかって、ちょっとヒステリックになって空気が悪くなるところを、柊子が上手くまとめたり。

朝倉にイライラする大和と同様、読者もちょっといらつくけれども、この辺りはいつもの有川さんのお話ぽい。

大和は、有川さん作品のヒーローらしく、ちょっと荒っぽいところもあるけれども、非常にまっとうな感覚の持ち主で、いい奴です。
目端の利く奴…と彼を評する登場人物がいますが、まさに。
物事を公平にみることができて、価値観に揺らぎが無くて、格好良い。

英代さんは、あったかく大和を包み込む、代理母
…と書くと、なんとなくわかる?
代理母が守っている…となれば、本当の母親はどうしたのだろうって、なりますよね。
可能性として考えられるのは、本当の母とは早い段階で死別もしくは生別。

オープニングでは、荒んだ目をした男をみて、大和が思うんです。
「この男は俺だ」って。
かつて大和も同じ目をしていた。
この男は、かつての大和がそのまま大人になっていたら、きっとなっていたであろう自分。

大和がかつて、そんな荒んだ目をしていたのは、本当の母のせい。
暴力をふるう父から母を守ろうと闘ったのに、それを理解してもらえず、母から傷つけられたせい。
その時、母が放った「ほら、お父さんにそっくり!」という言葉が、大和の心に深い棘になって刺さったままになっている。
その棘は抜けないけれど、大和がまっとうないい奴になったのは、英代さんのおかげです。


そんな5人のお話に、離婚寸前の夫婦とその息子のお話が絡んできて。
更に、真っ当に生きる道を選ばしてもらえなかった3人の男と1人の女の話が絡んで。


読み終わったときには、この後が気になる部分もあるけど。
みんな、聖なる夜に、救われる…そんなお話かと。


初めのうちは、ヒトモドキのお話だったら嫌だなあと思いましたが、結局、ヒトモドキは大和のお母さんだけかな。
こんないい人ばっかりいるかよ!って思えるくらいに、みーんな幸せになれるような、お話でした。


このお話の後、きっと大和は自分の心の傷を全部さらけだして、そして、いつか心の棘は朽ちてしまうだろうと思います。
…というか、そうなって欲しいな。

自分以外の誰かを、本気で思える人は、みんな「ヒト」。
そんなみんなが幸せになれるといいな。

そんなお話です。