「エッグ」

野田地図 第17回公演
作・演出 野田秀樹
音楽 椎名林檎


††キャスト††
阿倍比羅夫 妻夫木聡
苺イチエ 深津絵理
粒来幸吉 仲村トオル
オーナー 秋山奈津子
平川 大倉孝二
床山 藤井隆
劇場案内係/芸術監督 野田秀樹
消田監督 橋爪功

○田フミヨ 深井順子
女学生×田 上地春奈
女学生△田 大西智子
女学生□田 秋草瑠衣子

アンサンブル
伊藤昌子/大石貴也/大石将弘/川原田樹/菊沢将憲/木村悟/久保田武人/黒瀧保士/河内大和/後藤剛範/後藤陽子/近藤彩香/佐藤ばびぶべ/佐藤悠玄/下司尚美/白倉裕二/竹内宏樹/冨永竜/永田恵実/西田夏奈子/野口卓磨/萩原亮介/的場祐太/三明真実/柳沢友里亜


座席は、2階サイドシート。
土日公演で残っていたのがこの席だったのです。
上手側のサイドシートだったため、舞台は上手三分の一ほどが見えない状態。
それはちょっと残念でしたが、それでも見に行けたのは良かったです。

プログラムは、公式でも発表があったとおり、CD付の特別パッケージと通常版と。
舞台を見たら、CD付が欲しくなるかもなーと思いましたが、通常版を購入しました。


お芝居は、東京芸術劇場の改装と絡めたお話でした。
改装工事中の劇場に見学に来る女学生達と案内係のおばさん。
一人の女学生が劇場の梁に隠されていた寺山修司の原稿を見つけ、それを芸術監督が演出していくという作り。

女学生達と案内係と芸術監督は、現実世界の人間で。
エッグの登場人物達は、寺山修司の原稿の中に存在するお芝居の中の人間。
その中で、消田監督はお芝居の中の人間でありつつ、舞台監督とお話の方針を確認しあったり…というちょっと複雑な構造。

ただ、案内係のセリフに「改装中の劇場は魔物が降ってくるの」「懐かしがらせるの。改装前のほうがよかったなあって」とかあるんですが。
これって、「改装」と「回想」をかけてますよね。
そして、お話自体も回想…というか。
登場人物達の時間は進んでいくのに、時代は遡っていくという不思議な時間軸のお話。
そして、時代が遡るに連れて、女学生達もお芝居に取り込まれていくという不思議。

外科医だから男、オーナーだから男という思いこみ。
オーナーに飼い殺しにされている大勢の廊下の噂。
熱狂こそ伝わるものの、まったく実体の見えない「エッグ」

いろんなものが隠されているようで、でもそれに気がつけないほどに物語は足早に進んでいく。

車椅子に乗った、瀕死の阿部。
「阿部は『エッグ』の聖人で通す」
「『エッグ』の聖人は粒来幸吉さんです」
「こいつでいいんだ!」

冒頭とラストに繰り返される、このシーン。
冒頭ではわからなかったことがラストでは明らかになります。

そして、『エッグ』という「スポーツ」の意味も明らかに。

舞台を見ているときには、「一体何が??」と煙に巻かれたような感じもありました。
しかし、見終わって一週間が経ち、脚本を読み返したりしているとじわじわと来るものがあります。

「ザ・キャラクター」の時のような衝撃ではなく。
「オイル」の時のようなストレートなものでもなく。

明るく朗らかだった阿部の、真実はどうだったのかとか。
ベンチで戦略立てるばかりの粒来の、真実はどうだったのかとか。

お芝居の中の登場人物は、更に、お芝居の中の現実を投影した登場人物で。
お芝居の中の本当の阿部を、別の姿に仕立て上げたのが『エッグ』の阿部。
「裸足のあべべ〜」と軽やかに走っていった阿部は、本当はどうだったのだろうと。

記録に残してはいけないから、まるで別のものを語るように話していた。
すべては闇の中。
そういう不気味さを感じさせるお話でした。
全体のトーンは明るかったんですけどね。
明るいからこそ、怖い。

今、もう一回みたいなあとしみじみ思っています。
自分の中で、物語がそれなりに熟成している感じ。
もう一回見たら、もっと別の、もしくは深い見方ができるんじゃないだろうか。