「二都物語」('13/8/3ソワレ)

ミュージカル「二都物語

A Tale of Two Cities

原作:チャールズ・ディケンズ
脚本・作詞・作曲:ジル・サントリエロ
追加音楽:フランク・ワイルドホーン
翻訳・演出:鵜山仁


††キャスト††
井上芳雄 シドニー・カートン
浦井健治 チャールズ・ダーニー
すみれ ルーシー・マネット

濱田めぐみ マダム・ドファルジュ
橋元さとし ドファルジュ
今井清隆 ドクター・マネット
福井貴一 バーサッド
宮川浩 ジェリー・クランチャー
岡幸二郎 サン・デヴレモンド侯爵

原康義 ジャービス・ロリー
塩田朋子 ミス・ブロス
原慎一郎 弁護士ストライバー

男性アンサンブル
安部誠司/奥山寛/さけもとあきら/管谷孝介/武内耕/谷口浩久/寺元健一郎/松澤重雄/溝渕俊介/森山純/山名孝幸/横沢健司

女性アンサンブル
石原絵理/岩崎亜希子/樺島麻美/河合篤子/木村帆香/保泉沙耶/真記子/三木麻衣子/やまぎちあきこ


二都は、イギリスとフランス…「都」だから、ロンドンとパリ、でしょうか。
シドニー、ジェリー、ミス・ブロス、ロリー、ストライバーが英国人で、その他はフランス人かな。

父親が投獄されたため、ミス・ブロスに育てられたルーシー。
父親が出獄したため、フランスへ渡る。
ドファルジュが父親を保護していたが、父親は記憶障害。
しかし、妻に瓜二つの娘を見て、少しずつ記憶と人間らしさを取り戻していく。
そして、イギリスへ。
イギリスへ戻る船上でチャールズと出会う。
チャールズは、フランス貴族・デヴレモンド侯爵の甥だったが、地位を捨てイギリスへ行くところだった。
しかし、甥を目障りに思った侯爵の陰謀により、スパイ容疑で捕らえられ裁判にかけられることに。
チャールズの弁護をすることになったのがシドニー
以後、チャールズ、シドニー、そしてルーシーは友人つきあいをはじめる。
やがて、チャールズとルーシーが結婚、娘も生まれ幸せに暮らす。
シドニーも頻繁にその家庭を訪れ、家族の一員のような扱いを受ける。
その後、フランス革命が勃発。
チャールズはかつての召使いのため、フランスへ渡るが、そこで捕らえられる。
一旦は釈放されそうになるが、マネット医師の古い手記より、侯爵とその兄(チャールズの父)の罪が告発され、チャールズに死刑が言い渡される。

…というのが、ミュージカルのあらすじでしょうか。
(ラストのネタバレは省いています)


ルーシーの少女時代から始まり、結婚、出産、娘もかつてのルーシーの年齢くらいに成長して…という、そこそこ長い時間を描いています。
少女時代は短いですし、結婚、出産もさらりと流されていますが。
物語がとびとびで、どう繋がるのかがわからなくて、1幕はちょっと退屈でした。
酒浸りのシドニー・カートン。何で、酒浸り?とか。
チャールズと侯爵の対立は描かれていましたが、これ、どう繋がるんだろ?とか。
チャールズの裁判(スパイ容疑の方)も、尺の長い場面でしたが、それほど盛り上がるでもなく。

そうです。
なんとなく、山場がわからなかった感じです。

パリで子どもが貴族の馬車に轢かれ、父親が復讐をするところも、唐突な感じでした。
関係ありませんが、子どもを轢いた馬車に乗っていたのは侯爵で、その際、馬車が汚れるとかそんな感じの台詞を言っていたのですが、私の頭の中には「文句があるならベルサイユにいらっしゃい!」がこだましておりました(笑)。
ベルバラのポリニャック夫人ですね。
なお、この貴族は侯爵、つまり岡さんでした。

そんないまいち盛り上がる場面がないなあ〜の中で、私が好きなシーンは、小さなルーシー(ルーシーとチャールズの娘)とシドニーの交流シーン。
ここは、「大いなる遺産」(ディケンズ作)のピップを思い出していました。
ピップも独り身で、親友ハーバートの家庭で家族のぬくもりを感じているんですが、そこがシドニーと重なりました。
小さなルーシーがシドニーを慕っているのが、彼にとっての幸せなんでしょうね。

そういう家族との縁が薄い主人公って、クリスマスキャロルもそうだった気がします。
ディケンズの人物設定にはそういう人が多いのかな、と思いました。


さて、しかしです。
2幕に入って、舞台がフランスに戻ると、一気に舞台は盛り上がりました。
チャールズの死刑が決まり、チャールズだけでなくルーシーや小さなルーシーにまで害が及びそうになる。
このあとの、シドニーのとる行動は予想できました。
そこからラストまで、シドニーの見せ場。そして、ラストに絡むお針子の女の子。
また、ルーシーや小さなルーシーを捕らえようとやって来たマダム・ドファルジュ。
緊迫したシーンが続き、1幕の冗長さを補った感じでした。


全部、見終わって、1幕のゆったりした感じは、ディケンズらしい入り組んだ設定を説明するために必要だったのだなあと思います。
でも、もう少し上手く料理してくださると、もっと面白くなると思うのですが。

2幕の革命のシーンは、「憎しみからは何も生まれない」「憎しみを断ち切る」ということの重要性を語っているようでした。
マダム・ドファルジュは、憎しみに目が曇って正常な判断ができなくなっている。
革命という異常事態が、マダムを後押ししてしまう。
「MA」を見たときも、革命の熱に浮かされた民衆の怖さを感じましたが、今回もそう。
そして、それは、決して昔の話ではなく、現在のエジプト情勢なども同じではないのか、と思いました。

歌に関しては、井上さんと浦井さんのデュエットがよかったです。
あとは、濱田さんもよかったですね。
でも、他はあんまり覚えていません。
歌より、お話に重きをおいて見てしまったのかも。


ここから、ちょっとだけ個別感想。

シドニー
初めのちゃらんぽらんな感じが何故なのか、設定が語られないので謎です。
主人公の筈なのに、この人だけ、バックボーンがわからない。
最後の方で、家族に恵まれなかったとわかりましたが、酒浸りだった理由などはやっぱりわかりません。
ラストの行動は、ルーシーのためというよりは、孤独な自分に家族を与えてくれた人たちのためにだと思いました。
共感はあまりできませんし、格好いいヒーローでもありません。
でも、彼らに出会うまでの孤独と、出会ってからの幸福とが、伝わってくる主人公でした。
きっとシドニーは幸せだったと思う。


■チャールズ
いい人オーラ全開でした。
貴族らしい鷹揚さいうか、育ちの良さがでていました。
叔父との確執など、苦労もしているはずなのに、真っ直ぐ人を信じられる人。
シドニーとのデュエットは、声もよくあっていて、本当に聞いていて気持ちよかったです。


■ルーシー
彼女の人生を軸に、物語は描かれていますから、主役の一人といってもいいはずなのですが…。
不思議なほどに、空気でした。
彼女がいなければ、物語は動かないんですが、彼女の個性とかは全然伝わらない。
クリスマスにひとりぼっちのシドニーを招いたり、チャールズと同様のいい人なのかな。
シドニーから告白されて、断った後も、自宅に入り浸るシドニーを普通に扱うなど、なかなか凄い人なのかもしれませんが。
それも、人間性というより、レディとしての振る舞いのように感じる。
そんな個性があまり見えない人物でした。


■小さいルーシー
私には、こちらのルーシーの方が、ずっと印象的でした。
子役さんは交代制で、この日がどの子だったか、わからないのですが…。
シドニー大好き!というのが現れていてよかったです。
歌も、上手でしたよ。
少し前に聞いたレミのリトル・コゼットより遥かによかったです。
小さいルーシーがシドニーの為にお祈りをするシーンが2回でてくるのですが、とてもよかったです。


■マダム・ドファルジュ
そういう設定があったのか!と驚かされました。
初めは、マネット医師を守る役割だったし、ルーシーのことも気遣っていたのに、一転、「皆殺しにする」になってしまう怖さ。
濱田さんは、白い役より黒い役の方がお似合いだし、生き生きとして見えます。
でも、マダムはちょっと可哀想でした。
憎しみだけに捕らわれると、こんなに悲しい人になるんだなあと思いました。


■ドファルジュ
理性的で落ち着いた人柄。
マダムの哀しみを何とか止めようとするんだけど、できない。
でも、この人のおかげで、憎しみの連鎖が途切れてよかったです。
ふだんの生活ではリーダー的な立場で、みんなも彼に頼っているようなのに、革命になると、彼の理性的な意見は通らなくなってしまう。
実際の革命でも、こういう人はいたのでしょうが、声の大きな人たちによって隠されてしまったんでしょうね。


■その他
アンサンブルに寺元さんがいらっしゃったので、プログラムで役を確認してみました。
「ジキル&ハイド」でいいなーと思った役者さんです。
一番はじめに書いてあったのが、「殺される青年」
しっかりソロがあって、やはりよい声でした。
これからも、注目していこうと思います(^^)

他には、お針子さんが印象的だったので、この方もプログラムで確認しました。
保泉さん、という方でした。
これは、役もよかったと思いますが、シドニーをいい感じで引き立てていたと思います。

今井さんのお父さんは、ちょっとバルジャン?
岡さんは、嫌味な貴族がお似合いでした。
ミス・ブロスもよかったかな。
ジェリー・クランチャーも個性的でよかったです。


あと1回か2回みたら、もっと感想は変わってきそうです。
とりあえず、原作は読んでみようと思います。