「明日の子供たち」

「明日の子供たち」
 有川浩:著

明日の子供たち


幻冬舎創立20周年記念特別書き下ろし作品
ということで、
児童養護施設を舞台に繰り広げられるドラマスティック長篇。
だそうです。

読み始めるまでは、特に何も思いませんでしたが、読んでいる内に感じたのは、
この作品のための取材などから、「キャロリング」は生まれたのかも…ということ。
キャロリング」については、少し前に感想を書いているので、割愛ですが。

本の帯には、主要登場人物の紹介がありますが、読み終わった後に改めて見ると、ちょっと違う気もします。
勝手に私が紹介しますと…。

主人公は、三田村慎平。
テレビで児童養護施設の特集を見て、感動して、転職してきました。
ちょっと勘違いしているのは、すぐ分かります。

三田村の指導役は、和泉和恵。
本の中では、ほぼ名字しか呼ばれないので、読み返して「ああ、和泉ちゃんじゃなくて和恵ちゃんだったんだ」と思うくらい。

陰気な雰囲気のベテラン職員、猪俣吉行。
…陰気なという設定は、登場シーンから何度か出てくるんですが、読んでいるとそういう印象は薄目。

施設長の福原政子。
ふくよかで、ほっこりしていて、やさしい雰囲気。
おふくろ、というより、おかあさん。
もしかしたら、おばあちゃん、的な存在感。

副詞節長の梨田克彦。
厳しくて、声が大きくて、お父さん…よりは、近所の頑固じじい的なw

他にも、施設で働く職員は多数いますが、名前の出てくるのはこの5名。


一方、施設の子どもたち。

和泉と三田村が担当している谷村奏子は、聞き分けの良い「問題のない子供」。
もうひとり、和泉と三田村が担当している、奏子と同室の坂上杏里は、ちょっと派手目の今時の高校生。
他にも、二人が担当している子どもたちがいる(全部で6名担当しているらしい)のですが、名前が出てきて、お話にも登場しているのはこの二人。
(三田村は見習いなので、和泉と二人で担当していますが、本来はひとりの職員で複数の子どもを担当するそうです)
あと一人、猪俣が担当している平田久志も、「問題のない子供」で、防衛大への進学を希望しています。

子どもたちの中で登場するのは、この3名。
もちろん、わーっと登場する子どもも多数いるのですが、名前があってお話に絡むのはこの3名。
もっと言えば、「問題のない子供」の2名が中心。


三田村が、児童養護施設「あしたの家」で働くようになって、ほぼ半年ほどの間におこる、日常的なお話です。
三田村を代表とする、一般的な捉え方を、子どもたちの側から打ち砕き。
施設の子どもたちが抱える問題から、進学問題を取り上げ。
進学、もしくは就職をして、施設を出ていった子どもたちのフォローをする場所が無いことを知らせ。
何故、この日本で、彼らへの支援が後回しになっているかについて切り込む。

こうやって、書いていくと、決してドラマティックではないですね。
それを、物語として読ませていくのは、さすが有川浩さん、というところかと。
実際、読み始めたらぐいぐいと引き込まれますし。

読みながら、少し、これまでの有川さんの作品に出てくる登場人物たちに似ているなあと思っていました。
三田村は、「図書館戦争」の笠原に少し似ている気がします。
もしくは「県庁おもてなし課」の主人公にも(名前忘れた^^;)
和泉は、堂上ですよね。…もうちょっと冷静だけど。
猪俣は、柔らかいけど実は武闘派の小牧。
福原施設長は、全然違う気もするけどその存在感が、稲嶺司令。
…ってほぼ、「図書館戦争」かい!って突っ込まれそうですが。

和泉と堂上は、ちょっと無理矢理感が自分でもあるんですが、他の皆さんは、結構本気で、読んでいて彷彿としたキャラクター。
実は、そのせいで、ちょっとお話にのめりこみ切れなかったところ、あります。
更に、ラストの方で出てくるエピソードから、若干、作者自身の顔が見えてしまい、そこものめり込み切れなかった部分。

私が勝手に思っているだけなのかもしれませんが、作家さんの顔が前に出過ぎている気がして、その点だけが少し残念です。
お話自体はぐいぐいと読めたし、面白かった!と言えるのですが…読み終わった後に「う〜ん…なんかなあ」となったのは、そのせい。

お話の中、普遍性を持たせる為でしょうが、半沢直樹ハヤブサタロウとしたり、「明日、ママがいない」を「ママがいなくなった」としたりしているのが、現在を映しすぎていてちょっとしんどかったかも。(読み手側の気持ちとして)
ユニクロ→ウニクロはさらっと読み流せたんですが…。

お話は面白かったですし、知らなかったことに対する目も開かれると思いますし、いい本だと思います。
でも、個人的に少し心に「ざらり」としたもの、もしくは「もやっとした思い」が残ったのでした。