「ジュリアス・シーザー」('14/11/15ソワレ)

彩の国シェイクスピア・シリーズ第29弾
ジュリアス・シーザー


††キャスト††

阿部寛 マーカス・ブルータス
藤原竜也 マーク・アントニー
横田栄司 ジュリアス・シーザー
吉田鋼太郎 カイアス・キャシアス

たかお鷹 マララス/アーテミドーラス/市民
青山達三 占い師/市民/兵士
山本道子 カルパーニア
塾一久 シセロー/レピダス/市民/兵士
原康義 フレヴィアス/メテラス・シンバー/市民/兵士
大石継太 キャスカ/市民/兵士
丸山智己 ルシリアス/元老/市民
廣田高志 シナ/ヴォラムニアス/市民/兵士
間宮啓行 ディーシアス・ブルータス/修理屋/市民/兵士
高瀬哲朗 詩人シナ/市民/兵士
星智也 ピンダラス/元老/市民
松尾敏伸 オクテヴィアス・ソーザー/市民
岡田正 トレボニアス/市民/兵士
石母田史朗 クライタス/市民/兵士
中村昌也 ストレイトー/市民/兵士
浅野望 ポーシャ/市民
二反田雅澄 ティティニアス/元老/市民/兵士
飯田邦博 ポピリアス・レナ/市民/兵士
新川将人 メサーラ/市民
澤魁士 市民/兵士
安福毅 パブリアス/市民/兵士
五味良介 兵士2/市民
手打隆盛 ダーデニアス/大工/市民/兵士
水谷悟 兵士1/市民
齋藤慎平 アントニーの召使い/市民/兵士
続木淳平 青年ケイトー/市民/兵士
松崎浩太郎 使者/市民/兵士
後田真欧 ヴァラス/シーザーの召使い/市民/兵士
原田琢磨 クローディオ/市民/兵士
中島来星 ルーシアス(ダブル・キャスト)/市民
小嶋一星 ルーシアス(ダブル・キャスト)/市民



演出:蜷川幸雄



シアタードラマシティにて。
どうしても、シーザーといえば、「ローマ人の物語」のカエサルを思い浮かべてしまいます。
ブルータスや、アントニウスオクタヴィアヌスも然り。

シェイクスピアは、彼らをこういう人物と捉えていたのかなあ…などと考えながら見ていました。

お話自体は、史実に基づいているのだろうと思います。
凱旋してきたシーザーを、「皇帝に!」と三度アントニーが叫び、三度シーザーは固辞。
これまでのシーザーの様子や、その有様を伝え聞いたキャシアスは、シーザーを亡き者にしようと策略を巡らせる。
キャシアス自身は、シーザーへの嫉妬もあるのだが、あくまでも共和制を守るためと称して、高潔なブルータスを仲間に引き入れようとする。
そして、元老院に現れたシーザーを殺害。
ブルータスを見たシーザーは言う「ブルータスよ、お前もか」

シーザーの死を聞いたアントニーは、ブルータスとキャシアスの前に現れ、恭順の意を述べる。
キャシアスはアントニーを殺すよう、ブルータスに促すが、高潔なブルータスはそれを認めない。
シーザーの遺体を葬ることと、市民の前で弔辞を述べることの許可を求めるアントニーにも、キャシアスは警戒の念を抱くが、ブルータスは気にしない。

市民達に、何故シーザーを殺したのかと糾弾されたブルータスとキャシアスは、二手に分かれて演説をする。
ブルータスの言葉を聞き、シーザーの野心を知った市民は、ブルータスを支持する。
しかし、ブルータスが去ったあと、登壇したアントニーは、シーザーの行ったことを順に述べ、「しかし高潔なブルータスは、シーザーに野心があったという。高潔なブルータスが言っているのだから確かだ」と付け加える。
決して、自らの言葉が市民を煽動したのではない、という体をとって、煽動していくアントニー

シーザーの跡取りとなったオクテヴィアスをローマに安全に引き入れ、レピダスと三人でキャシアス・ブルータスを攻める。
ローマから逃れた二人は、最後の決戦に臨む。
アントニー軍とキャシアス軍、オクテヴィアス軍とブルータス軍。
アントニーに破れたキャシアスは、負けたと勘違いし自害。
ブルータス軍もまた追いつめられ、ブルータスも自害。


シェイクスピアのブルータスは、確かに高潔で、政治的な策略から遠くて、だからこそ破滅する。
シーザーは、妻の夢見で元老院へ行くのをやめようとするなど、暗愚な面もあるように描かれている。
意外だったのは、アントニー
無骨に見せかけて、策略家。
この物語の影の主役と言って良いのでは?
オクテヴィアスは、血気盛んな若者で、もう少し冷静な面もあってもいいのに。

アントニークレオパトラ」を見たときにも、オクテヴィアスについては、ちょっと不満が残りましたが、それがシェイクスピアの見たオクテヴィアスということなのでしょう。
一方、アントニーについては、クレオパトラというファム・ファタルに出会ってしまったが故の破滅でしたから、今回のアントニーの延長線上にいる気がします。

とにかく、今回一番印象に残ったのは、アントニーです。
特に、市民を煽動する演説は圧巻でした。
上手いなあ…と感心する。
人身の把握など、本当にお見事。
実際のアントニーは、多分、こんなこと出来なかっただろうけど…と思いますが。

ブルータスについては…高潔なの?
このお芝居では、確かに高潔なブルータスでしたが、私のイメージは、小物。
シーザーの「ブルータスよ、お前もか」は、「お前もそっちに乗せられた?あちゃー」的にブルータスに苦笑いしながら言っているイメージ。
お前ごときの小物が、国を憂えるとか…ないだろう? その場の気持ちで動くその癖、改めたほうがいいぞ? と忠告している感じに思っていました。

そんなわけで、なるほどなー。シェイクスピアは、この人たちをこういう風に捉えていたんだなあと興味深く見ていたのでした。


個別感想は、簡単に。


■ブルータス
高潔で、融通が利かないブルータスに阿部さんはぴったりな感じ。
こういう役は似合うと思います。
立ち姿、マントの捌きなど、美しかったです。


アントニー
言わずもがなで、素晴らしかったです。
メイクが濃くて、最初、藤原竜也さんだと分からなかった。
(声は藤原さんなのですが)
最初はシーザーの取り巻きでしかないように見えて、実にしたたかで、お見事でした。


■シーザー
やや俗物。
いや、シーザーは究極の俗物とも言えるかもしれないけど。
もっと剛胆なところが見えるとよかったな。
…というのは、カエサルからの感想ですが。


■キャシアス
嫉妬まみれなのを、ブルータスの前では隠しているのがよく分かる。
キャスカにキスしたり、ブルータスの前でかんしゃくを起こしたりするところで、ちょこちょこアドリブを入れていらっしゃったみたいです。
感情を爆発させると、だだっ子のようで、なんだよなーって思わせるのが上手いかな。


■キャスカ
なんか、軽やかで面白かったです。


■オクテヴィアス
感情的で、ちょっと惜しい。


■ポーシャ
うーん。
役者さんがどうというよりも。
無理矢理、夫の秘密を聞き出して(男の気持ちを持っているから大丈夫といっておきながら)、その秘密の重さに心の安定を無くし、夫の不在に耐えられず松明を飲み込んで自害…とか、どうよ?と思いました。
※追記
史実では、ブルータスの妻は唯一女性で暗殺の仲間に荷担していたとか。
火を飲んで死んだというのも、伝わっているそうです。
ただし、それはブルータスの死を知り、もはやこれまでと思ったからという説。
それくらい、りりしいというか、男気のある女性なら、最初の方のポーシャはありかも。


■ルーシアス
忠実な従僕という感じで、可愛かったです。


その他、役名とか分かりませんが、市民の皆様がそれぞれに個性が出ていて良かったです。
群衆劇としても面白かったので、回数を見ると、もっと楽しかったかも。