「望月のあと 覚書源氏物語『若菜』」

「望月のあと」覚書源氏物語『若菜』
著:森谷明子


紫式部を主人公とした作者、三作目のお話。
いかにして、『玉鬘』系統のお話が生まれたか。
そして、『若菜』が書かれたか。

このシリーズを知ったのは、新聞での書評がきっかけでした。
『白の祝宴 逸文紫式部日記』という本が紹介されていたんです。
面白そうだなあと、図書館に借りに言ったら、シリーズですよと教えていただきました。
第1作は『千年の黙 異本源氏物語』。
聞いたら、順番に読みたいですよね。
両方をリクエストしたんですが、うまく行かないもので、先に『白の祝宴』が届いてしまいました。
とりあえず、先にこちらを読んで、その後『千年の黙』を読みました。

それまで、私は紫式部より清少納言が好きだったんですけど。
ここにでてくる紫式部(香子)は、理知的で素敵です。
紫式部日記」の印象では、大人しそうに見えて気が強い、ちょっとねちっこいタイプ。
そういう所は勿論あるんですが、きちんとした人物造形ができていて、成る程ーと思わされました。

『玉鬘』系統が書かれたのは、道長と姪をモデルにして…という設定と、そこに絡む推理小説のような伏線が面白かったです。
そして、初めて知ったこと。
玉鬘(これは巻名じゃなくて、姫の方)だけ、名前が書かれているの?
どの女君も男君も、名前が伏せられているのが源氏物語だと思っていたのに、まさかでびっくり。
作中にそのことがでてきたときは、作者(森谷さん)の創作かと思ったくらい。
でも、創作ではなく、実際に書かれているそうです。(まだ未確認ですが、これは確認せねば!)
そして、そのことがこのお話を書くきっかけになってもいるとか。
何故、この姫君だけ名前があるのか。そこには何か秘められた事情があるのではないか…と。
そこから、道長と姪の話が作られていく…というのは面白い作りです。

あと、『玉鬘』系統があとからできた理由もちゃんとあって、それも成る程でした。

シリーズ1作目は、『輝く日の宮』が何故失われたか。
2作目は『紫式部日記』がいかに書かれたか。

それぞれに別の事件も絡んでいくので、読み応えもあります。
2作目だと『枕草子』の「猫」の話も絡んできていて。
もともとは、3部作のつもりだったと、あとがきにありましたが、『宇治十帖』がまだ完成していないので、4作目もでるようです。
実際に紫式部が『宇治十帖』を書いたとは私は思っていないのですが、どんな風にお話が続いていくのか、楽しみです。