「小暮写眞館」


「小暮写眞館」
 宮部みゆきさん著
 講談社



主人公は、高校1年生の花菱栄一。
借家住まいだった花菱家が、家を買うにあたり、選んだのが、寂れた商店街にあった写真館。
とはいえ、花菱父は写真屋ではなく、普通のサラリーマン。
脱サラするつもりもなく、住む家として元・写真館を買ったというわけ。


勿体ないから…と、ショーウィンドーも「小暮写眞館」の看板もそのままで。
そんな風にしていたため、写真館が再営業を始めたと勘違いした女子高生から、不思議な写真を押しつけれることになる。


不思議な写真の謎を丁寧に解き明かしていく栄一。
その写真に込められた思いを知り、物語は幕を閉じる…筈だった。


のに。


うっかり、写真を持ち込んだ女子高生に「問題は解決した」なんて言ったことから、ネットを通じ、栄一のことが噂になってしまう。
そこから、また、別の不思議な写真が持ち込まれて…。



きっかけは、少しずつ違うけれど、栄一の元に持ち込まれる不思議な写真。
その写真が秘す人々の思いを掘り起こす栄一。
結果として、とどまっていた人々の思いが、前に進み出す、そんなお話でした。



不思議系ではあるものの、いわゆる超常現象モノという印象は薄いです。
それは、栄一が、至極合理的に謎を解き明かそうとしているからかな。


花菱家の人々がそれぞれに抱えていた痛みも、物語の中で姿を現し、やがて、乗り越えられていく。


表装の、菜の花畑に肌色と朱色のツートンカラーの電車が駅に止まっている写真。
春らしくてとても、あたたかい色合い。
ラストシーンを読むと、この写真の駅に目を凝らしてしまう。


何か大きな事件が起きるわけではない。
でも、家族にとって、ある人にとって、とても大きな出来事を乗り越えて、前へ進み出す。
少し淋しくて、あたたかい、そんなお話でした。