「ろくでなし啄木」('11/1/29ソワレ)

††キャスト††
石川一 藤原竜也
テツ 中村勘太郎
トミ 吹石一恵

作・演出 三谷幸喜


会場はシアターBRAVA!
1階最上手で見てきました。
舞台は、八百屋舞台で、縦長に前にせり出している感じです。

舞台袖にはけるための通路はありますが、基本舞台は、正方形の舞台が二つ、縦に並んでいる感じ。


始まりは、啄木の死後、10年後。
歌碑が建って、その前で再会した男女。

それが、テツとトミです。


トミは、12年前、一(啄木の本名)が何故、自分の前から姿を消したのか、あの日あった本当のことを教えて欲しいと言います。
そこから、舞台は、12年前、一とテツとトミが、旅行に行った日に戻ります。


舞台奥に、滝のように降る雨。
雨の中、傘を差し佇む啄木。
背景に、タイトルが映し出され…。


温泉宿の部屋に戻ってくるトミ。
まだ、一もテツも戻っていないことに不思議に思いながら、二人を待っていると、一がつかれた様子で戻ってくる。
のぼせたから、ちょっと休んでいた、という一。
心配して近寄ってきたトミにイモリを押しつけ、驚かせる一。


そんなふうに、何気なく物語が始まっていきますが、ちょっとしたお話があって、最後に、どこかへ去ってしまう一。


トミは言います。
あの日の、いくつかの謎。
それはいったい何だったのか…。

その謎は、客席にも共通の謎で、どうして?と思いつつ、物語の流れの中で、確認できないままいたもの。


2幕。
今度は、テツがあの日のことを語り始めます。

1幕の一と同じように降りしきる雨。
そこに佇む啄木は、1幕とは逆に、客席に背中を向けて立っています。
そして、背景には、鏡文字でタイトルが映し出され…。

なるほど、今度は、裏側を見せるということでしょう。


テツの物語で、見えなかったいろいろなことがつながってきます。


そして、ラスト、いずこかへと姿を消す一。
さて。一は何故、姿を消したのか…。


このテツの物語で、1幕と違う点がひとつあります。
みんな、あれ?と思ったのではないでしょうか。


その「あれ?」を残したまま、物語は、歌碑の前、啄木の死後10年後に戻ります。


そこに、勢いよく現れる一。
一の口から、自分自身について、語られます。

「死人だからって、本当のことを言うとは限らない」と一自身が言っているように、それが真実の啄木の姿である、とは限らないのですが。

そして、あの日のことも語られます。
二人の記憶の齟齬と、去って行った本当の理由と。



1幕で、出来事の1面を描き、
2幕で、別の二つの角度からみた真実を描く。

舞台ならではの手法で、面白かったです。



しかし、面白さの一番は、やはり役者さんたちの力量でしょう。
藤原竜也さんは、天才は破滅的な人格者で無ければならないという変な思いこみのある、それでいて、根っこが小心者で真面目な啄木を見事に演じていらっしゃいました。
気分屋で、調子に乗るかと思えば拗ねる。
そのくせ、不意に見せる絶望的な表情。
さすがです。
啄木が本当にこんな人だったかどうかはわからないけど、こんな人だったら、テツやトミのように啄木を愛さずにはいられないかも。



中村勘太郎さんは、テンションが高い、テキ屋の兄ちゃん。
飛び跳ねたり走ったりする様子は、さすが、歌舞伎の世界で鍛えていらっしゃるだけあって、キレがあります。
身体能力高いなあ。
脱いだ浴衣を着るときの手慣れた様子と、帯をしめたあとの立ち姿の美しさは、やはり普段から着慣れているからですね。
人間の暗い部分も知っていそうな、それでいてとことん明るいテツさんは、とっても魅力的でした。



吹石一恵さんは、今回の公演では、「with吹石一恵」とあったので、補佐的な役割かと思ったのですが…。
とんでもなかったです。
しっかりした三人芝居。
これが、初舞台だなんて思えない。



とにかく、笑いあり。
それでいて、ただ、笑える舞台ではなく、しっかり残る舞台でした。


プログラムを読むと、この舞台は、藤原さんからの提案で実現したそうです。
大河ドラマ新選組!」がきっかけだそうです。
ただ、三谷さんは、「やりたいなら、まず自分の事務所を説得しなさい」と。
だから、今回の舞台は、藤原さんがやりたいと思って、動いた結果、やっと実現した舞台。

そういった裏話や、舞台稽古中の三人+三谷さんの対談などもあって、プログラムも読み応えありました。


市村さんと三谷さんの対談もありましたしねw
(三谷さんの生誕50周年記念シリーズに出ない人との対談というのを、各プログラムで展開していくらしいですw)


そうそう。
開演前のアナウンスですが、三谷さんと野田英樹さんの掛け合い漫才風味でした。
はじめ、「何故、野田さん?」と思いましたが、そういえば、この作品は東京芸術劇場で上演されたんでした。
大阪の楽のあと、また、東京に戻るようですが、そのときには、東京芸術劇場は野田地図公演で、別の劇場に行くというのが、なかなか変則的で面白いなーと思っています。