「天地明察」

天地明察
 沖方丁:著

天地明察


以前、司書さんに「面白いですよ」とお薦めいただいて、その時は借りなかった本。
年末年始に読む本を借りようと思って、図書館へ行ったときに、そのことを思い出して借りてきました。

そんな次第ですので、読んだのは、昨年末です。
それにしては、感想を書くのが遅すぎでしょ?という感じですが。
実は、読み終わったとき、「これは今年(2014年)一番の本だったなあ!」と思ったくらいに感動したのです。
そして、いざ感想を書こうと思ったら、感動のあまり、却って書けなくて。
そこで、しばらく寝かせておりましたわけです。

そういえば、映画にもなったと聞いたなあ…と検索してみたら、岡田准一さんと宮崎あおいさんでやってました。
岡田さんはちょっとイメージが違うけど(格好良すぎて)見てみたいかも…。
それは、この本で私が一番泣かされた、おじいちゃんコンビがすごくぴったりな感じだったからです。


さて、そんな「天地明察」ですから、今更感もあるかもしれませんが。


江戸時代、四代将軍家綱から五代将軍綱吉の治世が舞台。
主人公は、碁打ち衆の安井算哲。別名を渋川春海
将軍の前で囲碁を打つのがお仕事の算哲は、囲碁より算術に夢中。
自分の立ち位置に迷う気持ちがあって、「渋川春海」という名前を自分で付けている。

八幡宮の算術を書かれた絵馬(算額奉納)をきっかけに、算術の天才・関孝和を知り。
老中・酒井の命令で、北極星を観測する旅に出て。
会津藩主・保科正之から「改暦」を命じられ。
中国から輸入した「授時暦」を武器に改暦の儀に挑み、破れ。
ようやく出会うことが出来た関から叱咤され、再び改暦の儀に挑む。
急がず、焦らず、じっくりと足元を固め、時の帝の前で、再び破れ。
しかし、今度はそれも計算の内で、京の民衆や様々なものを味方につけ、ついに改暦の儀を成し遂げる…。

主人公、全然、格好良くないんですよ。
それなのに、情けない姿に泣かされるんですよ。

そして、また、脇の登場人物たちがとても魅力的。

勿論、私が一押しなのは、先にも書いた、おじいちゃん二人。
このおじいちゃん二人は、春海が北極星観測を命じられたときの、観測隊の隊長と副隊長。

隊長の建部昌明、六二歳。
大願は、渾天儀を双腕に抱きながら、三途の川を渡ること。
口癖は「精進せよ、精進せよ」
なんとも軽やかで、可愛い感じのおじいちゃん。

副隊長の伊藤重孝、五七歳。
大願は、分野を日本全土に当てはめること。
口癖は「頼みましたよ」
こちらも軽やかで、建部さんと二人そろっていると、少年二人みたいです。

この二人と春海の関わりが、とても好き。
春海が改暦に関わるようになったのは、この北極星観測の旅がきっかけ。
保科正之が春海に改暦を命じたのも、二人からの推挙があったから。

改暦の為もあったけれど、春海が二人の大願を引き継いでやり遂げることが、嬉しくて。
春海がそれぞれの大願を成し遂げたときは胸が熱くなりました。

関さんとの関わりも好き。
孤高の天才が、初めて分かり合えると思えたのが春海だったとか。
表に出ることが出来ない関さんが、裏で春海を手助けするのとか。

同じく天才の本因坊道策については、ちょっと可哀想ですが。
春海と一緒に、碁を極めていきたかっただろうなと思います。

春海の二人の奥さん。
「こと」さんと「えん」さん。
登場から、強かったえんさんは、いかにもヒロインで、印象的ですが、私は春海の最初の奥さんのことさんも好き。
ことさんが、渾天儀を抱きしめるシーンは、良いですよね。


とにかく、どこを切り取っても魅力的で、泣けてくる。

「合戦も剣客もない時代小説」
「これが滅法おもしろい!!!」

本当に、面白かったです。
文庫も出ているから、買おうかなあ…。