「ホロヴィッツとの対話」

ホロヴィッツとの対話」

作・演出:三谷幸喜

††出演††
渡辺 謙 フランツ・モア
段田安則 ウラディミール・ホロヴィッツ
和久井映美 エリザベス・モア
高泉淳子 ワンダ・ホロヴィッツ

演奏 荻野清子


19:00開演。
21:10終演(予定)。

実際には、21:20頃にカテコ含めて終了でした。


属調律師フランツの家に、天才ピアニストのホロヴィッツ夫妻が訪ねてきた一夜のお話。
フランツと妻のエリザベスは夫妻をもてなそうと必死。
しかし、天才ホロヴァィッツは神経質で我が侭。
ワンダに「我慢できないの?!」と叱られ、「我慢できるかできないかと言われたら、我慢できないこともない」「じゃあ我慢しなさい」と言いくるめられてしまう。

はじめはホロヴィッツの振る舞いにイライラしていたフランツ達ですが、段々、ワンダの行きすぎた忠告にエリザベスが怒り、ホロヴィッツ、ワンダが自らの心の傷について語り、夫妻のためにフランツが自分の子ども時代の悲しい体験を語り、最後には穏やかに夕食会は終了します。



渡辺さんは、誠実な調律師。
すごくいい人で、終始穏やか。
奥さんに対して、必死で「我慢して〜」となだめているのが、世のお父さん達を写していてかわいい。
でも、一本筋が通っているのも感じられる。
船が沈むとき、一人だけボートに乗れるとしたら、どうするか、という問に対しての答えがよかった。
「勿論、私は船に残ります。そして、あなたも船に残ってください。ボートの席は誰か他の人に譲りましょう」
「なぜなら、私の調律したピアノでなければ、あなたはあなたの演奏ができないからです」
この自負!
しかも、この言葉を自信満々に言うのではなく、穏やかに、世間話のように言うところに、「フランツ」という人の在り方が見えた気がしました。


和久井さんも、いかにもな奥さま。
感情の起伏がよくわかって、かわいいし、何より一番共感できるキャラクター。
高名なピアニストに相応しい料理や服装を気に病んでいるところなど、普通の奥様でしょ?
ホロヴィッツやワンダの細かいこだわりに、いらいらしてきて、でもにこやかに「はい〜」と答えるところ等、あるあるこういうこと!って感じ。
陰で旦那さんに「何よ!あの人達はー」と怒っても、お客様に呼ばれたらにっこり笑顔(ただし、引きつってるw)
フランツと信頼し合っていて、支え合っていて、子ども達を愛している、普通の奥様でした。


高泉さんと段田さんは、老夫妻なんですが、動きが見事におばあちゃんとおじいちゃん。
カテコで高泉さんは、背筋を伸ばし、颯爽と歩いていらっしゃいましたが、段田さんはおじいちゃんのまんま。
終演後、ポスターを見て「この人が、おじいちゃんやったん?」とびっくりしている人がいましたが、舞台だけ見ていたら段田さんの実年齢、わからんのも無理はないと思います。
それくらいに、徹頭徹尾、見事におじいちゃんでした。

高泉さんの、「私は何もかも正しい」という態度は、年配の人に見られがちな態度です。
「私はソニアをそうやって育てました。あなた達の子育ては間違っています」
偉大なる指揮者トスカニーニを祖父に、偉大なるピアニスト・ホロヴィッツを父に持ったソニア。
話題に出てくるだけの彼女ですが、彼らの言葉からソニアの存在が明確に立ち上がりました。

一方の段田さん。
変人で天才のピアニストを見事に演じていらっしゃいました。
靴を履いて、「これは○○の演奏会で履いた靴。あの時は〜だったからこの靴は履きたくない」
別の靴を履いて、「これは△△の演奏会で履いた靴。あの時は〜だったからこの靴は嫌だ」
次の靴を履いて、「右は○○の時の靴で、左は△△の時の靴じゃないか!」
水を飲んで、顔をしかめ、「エビアン1に他の水3だ〜」(ホロヴィッツエビアンしか飲まないのだそうです)
サーモンを見て、「これ、いつのサーモン?」「パック持ってきて」(購入日を確認するため)
…などなど。
サーモンは、その日のもので、古いものじゃないかというホロヴィッツの心配は当たっていませんでしたが、他の事(靴や水)については見事に言い当てていて、単なる思いつきの我が侭な人ではなく本当にわかっているという設定が凄い。
そして、その変人且つ天才ぶりを段田さんが豊かに演じていらっしゃるのが素敵でした。


演奏の荻野さんは、三谷さんの舞台で良く拝見します。
紗幕の向こうにピアノが設置されていて、場面にあった音楽を奏でてくださいます。
「ちゃんちゃん!」といった感じの音楽もあったりして、お芝居を盛り立てていてとても良かったです。
途中、ホロヴィッツが「女性のピアニストはダメだ」といった発言(これはエリザベスに向けての言葉)に対し、立ち上がって抗議をしようとするなどお芝居に関わってくるのも良かったです。
(この場面では、フランツが必死で荻野さんをなだめていたのも笑えましたw)


前半は、笑いがいっぱいで、後半にちょっとシリアス、でもラストはほのぼのとした気分になれるお芝居でした。
たった4人の役者さんと1人のピアニストさんによる舞台でしたが、2時間10分、あっという間で、濃密でとても楽しかったです。