「神々の山嶺」

神々の山嶺 (上) (角川文庫)神々の山嶺 (下) (角川文庫)

神々の山嶺
 夢枕獏:著


エヴェレストに挑む男たちのお話。

1924年6月8日。
山頂にアタックする、マロリーとアーヴィン。
サポートするオデルは、一瞬晴れ渡った空にそびえ立つエヴェレストの山腹にとりつく二人の人影を目撃する。
予定よりは、遅れているように見える二人。
一瞬の後、二人の姿は雲の向こうにかき消され、それがオデルが二人を見た最後となった。

1995年11月7日。
たった一人で、エヴェレストの斜面にテントを張って、吹雪に耐えている男。

二つのエピソードが、どう絡まり合うのか分からないまま、序章の幕が下ります。


本編は、一人の日本人が、カトマンドゥの古物商で古いカメラを手にしたことから始まります、
そのカメラの年式やメーカーから、マロリーのカメラではないか、と考えた彼は、どういう経緯でそのカメラが店に並ぶことになったのかを調べようとし、ビカール・サンと呼ばれる日本人と出会う。
その容貌から、ビカール・サンが羽生丈二という登山家ではないかと考えた主人公は、日本に帰り、羽生について調べ始めます。

羽生のことを知り、再び、カトマンドゥにやって来た主人公。
羽生が成し遂げようとしていることを知り、それを見届けようとします。


主人公・深町が、初めのうち情けなくて、共感がしにくいです。
一方の羽生は、孤高という言葉がぴったりの、なんというかすさまじい人です。
彼の生き方は、ひりひりとしたモノが伝わってきます。

共感しにくい深町の視点で、羽生を見守るのが読者である私たち。
もっと楽な生き方もあるだろうに、一番しんどい道を進んでいくように思える羽生。

――何故、山に登るのか?
――山がそこにあるからだ。

そう答えたのは、マロリー。
羽生の答は、「俺がここにいるからだ」

蒼い空にそびえ立つ真っ白なエヴェレスト。
そこにとりつく小さな人間。

決して「卑小」ではない、とは深町の言葉。


本を読んでいる間、何度も、頭の中に映像が広がることがありました。
その光景を、自らの目で見ているかのように、はっきりと、くっきりと。

このお話が、V6の岡田准一さん主演で映画化されることが、先日発表されました。
そのことは、本を読む前から知っていました。
初めのうち、情けない主人公・深町より、羽生の方が岡田さんに似合っていると思っていましたが、下巻に入った辺りから、深町も似合っているかもしれないと思うようになりました。
上巻を読んでいると、羽生の方が主人公にふさわしい気がしたのです。
深町は、狂言回し。
しかし、やっぱり主人公は深町でした。
ネットで調べると、羽生は阿部寛さんでした。
阿部さんだと分かった瞬間、また、ある1シーンが、はっきり目の前に広がりました。

この瞬間、もう、映画を見に行くことを決めました。
羽生や、深町が見た光景を、実際にみたいと思いました。


最後に。
このお話が完成した後、マロリーの屍体が発見されたそうです。
それに伴い、単行本と文庫本では、終章を少し書き換えたそうです。
どう変わったか、気になったので、ネットで調べました。
映画では、どちらを採用するのか、楽しみです。