映画「レ・ミゼラブル」

見に行ってきました。
うっすら雪化粧をしている街を見ながら…そういえば、25周年記念コンサートの映画を見に行ったときは大雪だったっけ…などと思い出に耽りつつ。
あの時は、道が真っ白になって、真っ暗な中帰るのが怖かったなあ…。
でも、今日はお昼だし、帰りには雪も溶けていたので、良かった良かったw


さて、感想です。
内容の前に…まずは音響について。
オープニング、やはりあの重低音を期待してしまったのですが、オケの音が軽く感じられて迫力不足。
25周年記念コンサートは、限られた映画館で、音響設備も良いところだったので、映画とはいえ非常に迫力がありました。
それを期待して行ったので、ちょっと肩すかしを食らった感ありです。
また、最初の囚人たちの歌も、響きがなくて、ちょっと残念。
これは、まあ、上映館の音響設備のせいなんでしょうね。
シネコンなので、もっと音響のいい部屋だったら違ったんだろうけども。
囁くように歌うところはいいんですけども、朗々と歌い上げるところになると、「もっと響きが欲しいなあ…」と思いました。


そして、内容については。
舞台版から映画になるにあたって、なのか、新演出版になるにあたって、なのかはわかりませんが、原作に依った部分が増えていて、それはそれでうれしかったです。

起重機ジャンと呼ばれるほどの力持ちだったことの描写があったり、ジャベールが市長を告発するところがあったり。
ファンテーヌは、ロケットを売って、髪を売って、歯も売って(見た目の関係からか、奥歯でしたが)、最後には体を売るとか。
コゼットがぼろ布で作ったお人形を大事にしていたり、ヴァルジャンが何故お人形を与えたのかせつめいがあったり。
テナルディエたちが、ヴァルジャンの素性を知るきっかけも描かれていたし、修道院に逃げ込んでフォーシェルバンさんに助けて貰ったところもありました。
マリウスが火薬に火を点けると脅したり、エポニーヌがマリウスを庇って撃たれたり…。
マリウスがエポニーヌの額にキスをしていたのも良かったなあ…。
あと、ガブローシュがマリウスからの手紙を届けに行ったりとか。
アンジョルラスが酒場に追いつめられて、後からグランテールが来て二人で死んでいったり。

そして、1曲、ヴァルジャンのソロが増えていましたが、コゼットと出会って幸福を得たというのがよかったです。
もともと「この時二つの孤独な魂が出会ったのだ」というところ、大好きだったので。

あと、原作に依ったわけではないけれども、泣かされた場面もいくつか。
エポが死んだときに、ガブローシュの目に一筋の涙が流れたところ。
並んだ死体の中からガブローシュを見つけて、ジャベールが自分がつけていた勲章(?)を外して、ガブの胸に置くところ。
ヴァルジャンがいなくなったと聞いたとき、コゼットが「私を悲しませることをパパがするなんて」と悲しむところ。
司教様が、ヴァルジャンを迎えに来るところ。

エポとガブは姉弟という設定はないかもしれないけれども。
でも、あったと考えてもいいかもしれなくて、普段、エポを家族と思っていないガブがこの時はやっぱりエポを悼んだとも思えると泣けた。
映画には無いけど、エポも最期のときに、ガブを死なせたくないって思ったんだもんね。

ジャベールがガブを悼むのは、少し不思議な気もしたけれど。
それでも、理屈抜きで泣けた。

原作では、ヴァルジャンを「ジャンさん」と呼んだり、いなくなっても気がつかないほどに自分の幸福に溺れていたコゼットが、ヴァルジャンの愛に報いるだけの愛を返していたことが嬉しかった。

司教様については、もう。
ヴァルジャンのその後の人生を、きっと褒め称えているんでしょう。
思い出すだけでも泣けるわ…。



以下、映画にしてはあるまじきかもしれませんがw
個別感想です。


■ヴァルジャン
仮出獄のときのボロボロ感がすごい。
服を着ているとわかりませんでしたが、がたいがすごくよい。
…って、プリュメ街の屋敷で胸元開けてますけど焼き印は?
(どうやら手首にあったらしい)

「Who am I?」は良かったけども、「Bring Him Home」はもうちょっと細く歌って欲しかったな。
あんな朗々と歌ったら、マリウス起きてしまいますよ。

ヴァルジャンのせいではないけど、仮出獄証を破り捨てるところ、教会じゃないほうがよかったし、アップばかりで疲れました。
教会にするなら神様の前に跪いている背中から撮るとか、そういうアングルも欲しかったなあ。

あと、コゼットへの愛は半端ないんですけども、ちょっと物足りなかったのは…。
やっぱりヴァルジャンは、すべての人々に愛を振る舞いながら生きる人であって欲しい(という私の思いこみがある)ので、そういうところをもっと表現して欲しかったなあ。


■ジャベール
執拗な感じが薄かったなあ。
どこか、偏執狂のような部分が欲しかった。
普通に、真面目ないい人っぽい感じ。
自らの正義に絶対の自信を持っていて、迷いがない人であって欲しかった。
それが出てないから、「自殺」に必然性を感じなくて。
自分が自分でいるためには、ヴァルジャンのいない世界にいるしかない…という絶望を、もっと表現して欲しかったなあ。


■ファンテーヌ
綺麗で、まさに「掃き溜めの鶴」。
スケベな工場長がちょっかいを出そうとするの、わかるわ。
悲壮感がよく出ていて、「嫌なヤツ」に怪我をさせる経緯がわかりやすかった。


■コゼット
今回、一番好きだったかもしれない。
大人コゼットの方です。
綺麗なだけのおばかじゃなくて、恋をして大人になって、自分の人生をきちんと見つめようとするなど強さを感じました。
生還したマリウスを支えるところにも、明確な意志の働きと強さを感じましたし、ヴァルジャンを思う気持ちも強くて良かった。


■マリウス
そばかすが気になった…ってそこじゃない?
声は低音が結構好きでした。
「空の椅子とテーブル」の激昂していくところとか、良かった。
結婚式でテナルディエを追い払うところ、ヴァルジャンに謝罪するところ、まっすぐな青年でよかったです。


■アンジョルラス
もうちょっと綺麗な人だといいな…とか。
いえ、十分格好良いのですが(^^;
そして、もうちょっと神経質そうだといいな…というのは、勝手な好みです。
これは、音響バランスのせいでしょうけども、もっとぽーんと声が飛び出して欲しかったかな。
グランテールとのラストは良かったけども、ぶらんぶらんは、やらなくてもよかったのでは?


■エポニーヌ
二の腕に力強さにちょっと驚きましたが。
歌、良かったです。
マリウスに抱かれて、本当に幸せそうなのが辛かったなあ。
あんまり書くことがないのですが、それは普通に、いいエポだったから。
ラスト、バリケードでガブと並んで微笑んでいるのは、泣けました。


■ガブローシュ
ちっちゃい。
25周年コンサートのガブより、ずっとちっちゃい。
くるくるとパリの街を走り回るのが、ガブローシュらしくて良かった。
バリケードの外で、銃弾を拾っているときの歌が、以前の歌になっていたのが嬉しかったです。


■テナルディエ
素早い動きで、見事に人のものをくすねていくのが、すごい。
憎めないオヤジ…って感じはあんまりなくて、原作寄りの嫌なヤツ風に感じました。


■マダムテナルディエ
見た目可愛いかった。
旦那と二人で悪いことしてる感じよくでていましたけども。
旦那と同じで、愛すべきワルではなく、普通に悪い人。


■学生たち
グランテール以外、見分けられなかった…。
まあ、これは舞台でも結構そうなんですけども。
ガブローシュが撃たれたとき、バリケードに連れ戻したの、誰だったんだろう。
グランテールも、それほど目立ってはいなかったです。


■司教様
一声、聞いた瞬間に、泣いた。
慈愛にあふれていて…。
「Brother」という一言が、あたたかく重く、ヴァルジャンの心に染みこむのがわかるようでした。

そうか。
こんなヴァルジャンだったら、もっと説得力があったのかも?
コルムさんの「Bring Him Home」だったら、ヴァルジャンの愛を納得できたかもしれないなあ。
コゼットと並んで、今回の映画のベストキャストでした。




歌は、ソロは、先ほども書いたように、ちょっと響きが足り無いと感じたところも多かったですが、コーラスは良かったです。
でも、「One Day More!」は、舞台でないとあの迫力はでませんね。
同じ板の上で、各場面が描かれ、一つの歌になる…というのは、映画では難しいです。
ラストシーンも、舞台の方が好きかな。
バリケードの上で晴れ晴れとしている彼らもよかったけど、そういった装置に目を取られて、歌のメッセージが違って来る気がするので。
「剣を捨て、鍬を取り、すべてのくびきから放たれて自由に生きる」
その上での「列に入れよ」なのに、なんだか、革命の「列に入れよ」と取れてしまいそうでしょ?
(そんな風に思うのは私だけか^^;)

見終わった後、思ったよりは、「もう一度見たい!」とは思わなかったです。
むしろ、舞台が見たくなりました。
映画は映画でいいんだけど…。
ヴァルジャンの慈愛と、ジャベールの絶望と、映画では薄く感じた部分を、舞台で見直したい。
…新演出版で、そのへんが変わっていたら、どうしようもないけど(^^;;