「絶対猫から動かない」

「絶対猫から動かない」新井素子

 

図書館で見つけて借りてきました。

素子さんの本は、基本、読むことにしています。

が、新刊の情報などをあまり(というかほとんど)チェックしないため、見過ごすことがしばしば。

この本も、1年も前に発売されていたんですね・・・。

出会えてよかったです。

 

お話は、4人の語り手がかわるがわる一人称で語る部分と、三人称でお話が進む部分、そこに異なる字体で挿入されるだれかの一人称という構成で進みます。

 

発端は、地下鉄に乗っていた時に起こった地震

地震で地下鉄がしばらく止まって、その地下鉄の車両で意識を失った人が出てしまう。

乗り合わせた看護師さんが、その乗客を診、危険な状態だと判断。

処置に困っていたところ、地下鉄が運転を再開し、乗客は次の駅から救急搬送される。

看護師さんは乗り掛かった舟ということで、その乗客に付き添い、そのほかの乗客は無事、それぞれの目的地へ向かう。

 

と、いうだけの、出来事。

地震、と出てきて、どきっとしたけれども、この地震は本当に小さなもので、物語に大きな影響は与えない。

ただ、語り手の一人、大原夢路という女性が、その地震が起こることを感じとり、また終わることも感じ取るという、ちょっと不思議なおまけがついていただけのはずだった。

 

この大原夢路さん、自分の父親が病気になり、母親と介護をしているうちに、母親も介護ができる状態ではなくなり、父親が亡くなる。続いて旦那さんの母親も介護が必要な状態であることがわかり、義父も病気になって大変な中で(旦那さんの両親は離れて暮らしていた)母親が亡くなる。自分の両親の介護はなくなったものの、義父母の介護はまだまだ続きそう・・・という状態。

夢路と一緒に地下鉄に乗り合わせていた関口冬美は、夢路の幼馴染で、こちらは孫の世話を一人でこなし、というか押し付けられて、自分の時間を持てないような状態。

 

という話を見ていると、これは、「おしまいの日」のような、日常の問題(夫婦や親子の関係の中から生じる問題)にSF要素が絡んでくるのかと思って読み進めていたんですが。

 

夢路がどうも、毎日同じ夢を見ているらしいところから、そうじゃないのかも?と思い始めました。

 

その夢というのが、地震で止まってしまったときの地下鉄車内の夢。

毎日、場面は、そこなんだけれども、少しずつ様相が変わってくる。

初めはきゃいきゃいとはしゃいでいたように思えた女子中学生の集団から、誰かが叫んでいるような声が聞こえるようになり、ついには断末魔のような悲鳴となり、それが途絶え、別の子の悲鳴が聞こえるようになる。

 

同じ夢というところとか、その夢の中で夢路が自分の思い通りに動けるとか、ちょっと不思議じゃないですか。

で、その夢の話をさりげなく冬美に話してみたら、初めは気づかなかった冬美も同じ夢を見ていたことを思い出す。

 

そして、このお話は先にも言ったように4人の語り手がいるのですが、その4人がやっぱり同じ夢を見ていたことが、それぞれの一人称で語られて。

 

夢の中でコンタクトを取った夢路が主導する形で、(偶然も重なって)4人と冬美、女子中学生の集団が顔を合わせることになります。

 

そして、もう一人。

字体がかわる一人称の語り手も少しずつ正体を現していく。

 

夢がほどけて、物語の謎もほどけていって、最後にはハッピーエンド、といっていいのかな。

 

みんなが出会っていく過程や、問題を解決していく過程は、どうなるのだろうとどきどきしながら読み進めていきました。

はじめは天然じーさんかっ!という感じだった人が、結局天然は天然なんですが、見る目があったり、看護師さんがかっこいい姐さんだったり、予想外の展開もあっておもしろかったです。

 

語り手の口調は、素子さんらしい語り口。

とってもくだけています。

あゆみちゃん(「星へ行く船」主人公)と比べても遜色ないくらいです。

私も、まあ、この年齢になってもかなりくだけているとは思っていますが、それ以上です。

そんな語り手である、夢路さん、56歳。

 

たしか素子さんは、自分と同年代の女性を主人公にすることが多かったと思いますので、なるほどなんですけども。

夢路さんの自己紹介で年齢を知らされるまで、さすがにそこまでの年齢とは思わなかったので、びっくりしました。

 

そして、二人目の語り手、氷川稔さん。

こちらも、語り口調だけなら、(あと会話の内容も含めてですが)40代半ばくらいかな、と思ったら54歳。

 

三人目の語り手、村雨大河さん。

一人称は「僕」だし、孫が生まれるとか言っているし、そもそも最初に61歳と言っているし、なんですが、そんな年齢の人の語り口調とは全く思えない!

 

四人目の語り手、佐川逸美さんは、中学教師で、20代なので問題ない(とはいえ、「マジですか」とか仕事仲間に言ってしまうのは、ちょっと引いてしまう)のですが、三人の口調と実年齢のギャップには、ちょっと驚いたというか、読むうえで負担ではありました。

 

まあ、そんな文体は置いといて。

読み進めるうちに、「あれ?」と思い始めます。

タイトル「絶対猫から動かない」。

夢路さんの理想は「猫」のような状態になること。

そして、「猫」になれたら、その状態から絶対動かないと決めている。

 

なにこれ、デジャブ?

これって、「いつか猫になる日まで」じゃないか?

そして、夢路さんの理想だけじゃなく、物語のねっこにも、「いつか猫になる日まで」が感じられる!

 

と、思っていたら、あとがきで「50代の『いつ猫』やりませんか」という編集者さんの言葉からこの話が生まれたとあって、そういうことでしたかーってなりました。

あ、これ、ネタバレになる?

でも、本の帯にがっつり

 

   永遠の名作

いつか猫になる日まで

    50代の

   アンサー小説

 

とありましたので、まあ、許される範囲のネタバレかと。

いつか猫になる日まで」がお好きな方も、ご存じでない方も、楽しめるお話だと思いますので、是非、ご一読くださいませ。

 (あ、私が帯に気が付いたのは読了後です。借りた図書館では、帯を中表紙に貼っているので読む前はちらっと眺めただけで気が付かなかった^^;)

 

絶対猫から動かない (角川書店単行本)

絶対猫から動かない (角川書店単行本)